研究内容

非平衡量子多体系を中心とした理論研究を展開しています。

フロッケトポロジカル状態

トポロジーは現代物性物理学の重要な概念です。トポロジーは摂動に対してロバストであり、物質が合成された時点で決まってしまうものであると信じられています。我々は物質のトポロジーを動的に変化させる手法を発見し、ベリー曲率やチャーン数、カイラルエッジ状態をレーザーのような時間周期的な外場を加えることで制御できる理論的なモデルを提案しました。鍵となるのは、電子が光の衣を纏った(photo-dressed)状態になることです。これらはフロッケ状態により説明することができ、フロッケバンドのトポロジーをレーザー強度や、偏光、周波数などの関数として変化させることができます。

フロッケ
(左)円偏光レーザーによってフロッケチャーン絶縁体になるハニカム格子の様子。
(右)高周波極限下で、ディラック点においてフロッケ擬エネルギーにギャップが開くことを示しています。これにより、フロッケベリー曲率が現れます。

さらに近年ではこのフロッケ状態や我々の提案したモデルが実験で観測され始め、この分野はますます発展しています。

ディラック電子の相対論的フロッケ工学

本研究では、波数と振動数を持つ進行波V(Qx−ωt)によって駆動された、ディラック電子系を始めとする量子物質における電子状態の変化を解析しました。この進行波には、レーザー光、ポラリトン、表面弾性波、スライディング密度波などが含まれ、外部から波数や振動数を制御することができ、特有の時間・空間周期性からフロッケ・ブロッホ状態を形成します。本研究ではモデルとして、円偏光レーザーに駆動された三次元(3D)ディラック電子を考え、進行波の速度に基づいて、それらを時間的、光的、空間的な波の3つのカテゴリに分類し、それぞれの場合で特徴的な電子状態が現れることを明らかにしました。また、電子のフロッケバンドの変化により、フロッケ・ワイルバンドが出現することを発見しました。さらに、波の速度がフェルミ速度に近づくとローレンツ収縮が最大化され、フロッケバンドエンジニアリングの効果が強化されることも明らかにしました。加えて、応答電流の幾何学的性質についても議論しています。

ディラック電子の相対論的フロッケ工学
ディラック電子の速度を光速、進行波の速度をシステムの速度としたときのローレンツ変換の図。2つの速度が等しい極限では「衝撃波」のように進行波の効果が増大される。

酵素反応のフロッケ駆動

光遺伝学などの、化学反応系を人工的に制御する技術が急速に発展しており、時間依存的な制御下での反応動力学を理解することがますます重要になっています。本研究では、時間依存してレートが変化する化学反応系を念頭に、古典確率過程のフロッケ理論を計数場を含む形で構築し、長時間経過後の定常カレントがどのように生成されるかを明らかにしました。特に、レートの時間周期変調が高速な場合と低速な場合の両領域で、カレントの解析的な表現を導出しました。
さらに、Gタンパク質によって活性化・抑制される酵素反応であるcAMP産生に着想を得て、レートが非摂動的かつ区間定数的に変化する離散フロッケ駆動の具体例として、Michaelis--Menten型反応モデルを考え、解析的な表現と数値計算の結果を得ました。特に、高周波数領域では、周期的な駆動の効果は化学反応レートが有効的に変化したものとして解釈できることを示しました。
これらの結果は、周期的に駆動される化学反応のフロッケ解析の基礎を提供します。

酵素反応のフロッケ駆動
(a)離散フロッケ駆動の動機となるcAMP産生系の模式図。Gタンパク質Gs, Gi との結合性により、アデニル酸シクラーゼ(AC)の触媒活性がオン・オフされる。
(b)cAMP産生系を、ACの状態に応じて Michaelis--Menten 型反応モデルに置き換えている様子。これにより、離散的に反応レートを切り替えるフロッケ駆動の問題として読み替える。